表現アートセラピーは、絵や粘土やコラージュなどで作品を創ったり、声や楽器を使って想いを音に込めたり、詩や物語を綴ったり、ドラマを演じたりして、いろいろなアート素材や媒体を取り入れ、自由に組み合わせ表現していく芸術療法のひとつになります。
パーソンセンタード表現アートセラピーの基礎理念は、創始者の心理療法家ナタリー・ロジャーズ博士の父、アメリカ合衆国の臨床心理学者カール・ロジャーズの心理学理論である、クライエントに対して分析や評価をしないで、ありのままに尊び受け入れ体験に寄り添っていくという人間性心理学がベースになっています。
表現アートセラピーのセッションでは、心理的な問題や障害と向き合い、トラウマの克服をサポートし、人間的な成長のプロセスを支えながら、内面的な心の世界を十分に味わえるような機会と場を提供していきます。
特徴として、いろいろな表現媒体を使い取り入れることで、喜び、悲しみ、愛、不安、恥ずかしさ、苦しみなどの感情を、平面(色、線、形)で見たり、立体(深み、重み)で眺めたり、動き(方向性、次元)で感じたりすることが出来るように細部にわたり工夫が施されています。
表現された作品を通して、非言語的に表れたもの(イメージ、シンボル)には、特別な意味(メッセージ)が込められていることがあります。
アートを使って抽象的に表現されたものは、誰も傷つけることなく感情を解き放ち、言葉では語りつくせないメッセージを、私たちに与えてくれます。そして、そのメッセージ(象徴的、比喩的)の中に、問題解決への大きなサポートになるようなギフト(気づき、洞察)があることを実感することが出来るでしょう。
セッションを進めていく役目のファシリテーター(促進者)は、その時、その場の状況に沿って最適な表現媒体だと思えるものを、提案しながら、心理的に守られた環境(空間)を整えセッションを促していきます。
セッションの中で使う媒体の組み合わせや順番は自由に選ぶことが出来、使いたいものや今の気持ちにピッタリと感じたもので試してみたいという、その時のクライエントのインスピレーションを大事にしていきます。また、作品の出来、不出来が目的でないことや、診断したり評価しないことも最初に伝えます。
また、表現アートセラピーは、個人セッションだけでなく、グループでのセッションにも取り入れることが出来ます。一般的にはワークショップという形として行われることが多く、年齢、性別、職種などに関係なく、そのグループの目的やテーマに合わせて活用出来ます。
例えば、初対面同志のグループ、共通のテーマを共有しているグループなどで、コミュニケーションを育む、お互いの共通点や相違点を認め合う、潜在能力や創造性を伸す、自己受容を促進する、などのセッションを行うことが可能です。
表現アートセラピーは、欧米諸国では既に医療、心理臨床、カウンセリングなどでも活用され、病院や学校や各種施設などの現場でも導入されています。また、対象年齢も幅広く低年齢層から高齢者までカバー出来、日本においても少しずつですが、活用の場が広がって来ています。
クリエイティブ・コネクションとは、いろいろな表現方法を組み合わせながら、連続してセッションに取り入れていく方法のことを言います。
組み合わせることにより、それぞれの表現方法が互いにサポートし合う相乗効果がうまれます。
例えば、悲しみや喜びの感情を絵で描いてみて(視覚アートセラピー)、その絵の中にある色や線を見て感じたことをからだを使って動きで表現してみます。(ダンス・ムーブメントセラピー)動いている内に今度は動作に何かの音をつけたくなってくるかもしれません。(ミュージックセラピー)そのようにいろんな体験を経て、感じたことを文章や詩歌に書いて表現してみます(詩歌・文芸療法)。このように、様々な感情を心の中に自分らしい方法で収めていくプロセスを、サポートし、繋げていくクリエイティブ・コネクションという手法を、セッションでは取り入れていきます。
ファシリテーターは、個人またはグループをリードして、ありのままの自分でいられる心理的に守られた環境(空間)を整え、参加者お一人お一人の心の成長をサポートしていく役目を果たしていきます。セッションの流れに沿って、最適な表現媒体を選び、使ってみたいかどうかをお聞きしながら進めていきます。参加者お一人お一人が、自分自身の心とからだの感覚と向き合い、自分のペースで対話していく過程(プロセス)に寄り添い、共に分かち合いながら歩いていきます。